「おいお重」とか云って、わざわざそこへ呼び出されたものであった。自分は兄よりも遥《はるか》に父の気に入るような賛辞を呈して引き退《さ》がった。そうして父の聞えない所で、「どうもあんな朝貌を賞《ほ》めなけりゃならないなんて、実際恐れ入るね。親父《おやじ》の酔興にも困っちまう」などと悪口を云った。
 いったい父は講釈好《こうしゃくずき》の説明好であった。その上時間に暇があるから、誰でも構わず、号鈴《ベル》を鳴らして呼寄せてはいろいろな話をした。お重などは呼ばれるたびに、「兄さん今日は御願だから代りに行ってちょうだい」と云う事がよくあった。そのお重に父はまた解り悪《にく》い事を話すのが大好だった。
 自分達が大阪から帰ったとき朝貌《あさがお》はまだ咲いていた。しかし父の興味はもう朝貌を離れていた。
「どうしました。例の変り種は」と自分が聞いて見ると、父は苦笑いをして「実は朝貌もあまり思わしくないから、来年からはもう止《や》めだ」と答えた。自分はおおかた父の誇りとして我々に見せた妙な花や葉が、おそらくその道の人から鑑定すると、成っていなかったんだろうと判断して、茶の間で大きな声を立てて笑った。
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