旨《うま》いものをちょうだいして」とやっと御茶を濁す事もあった。お重はそれでも腹が癒《い》えなそうに膨《ふく》れた頬をみんなに見せた。兄は黙って独《ひと》り書斎へ退《しりぞ》くのが常であった。

        四

 父はその年始めて誰かから朝貌《あさがお》を作る事を教わって、しきりに変った花や葉を愛玩《あいがん》していた。変ったと云っても普通のものがただ縮れて見立《みだて》がなくなるだけだから、宅中《うちじゅう》でそれを顧みるものは一人もなかった。ただ父の熱心と彼の早起と、いくつも並んでいる鉢《はち》と、綺麗《きれい》な砂と、それから最後に、厭《いや》に拗《す》ねた花の様《さま》や葉の形に感心するだけに過ぎなかった。
 父はそれらを縁側《えんがわ》へ並べて誰を捉《つら》まえても説明を怠《おこた》らなかった。
「なるほど面白いですなあ」と正直な兄までさも感心したらしく御世辞《おせじ》を余儀なくされていた。
 父は常に我々とはかけ隔《へだた》った奥の二間《ふたま》を専領《せんりょう》していた。簀垂《すだれ》のかかったその縁側に、朝貌はいつでも並べられた。したがって我々は「おい一郎」とか
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