だい」
「名古屋です」
 自分は吹き込む紗《しゃ》の窓を通して、ほとんど人影の射さない停車場《ステーション》の光景を、雨のうちに眺めた。名古屋名古屋と呼ぶ声がまだ遠くの方で聞こえた。それからこつりこつりという足音がたった一人で活きて来るように響いた。
「二郎ついでに妾《わたし》の足の方も締《し》めておくれな」
「御母さんの所も硝子《ガラス》が閉《た》っていないんですか。先刻《さっき》呼んだらよく寝ていらっしゃるようでしたから……」
 自分は嫂《あによめ》の方を片づけて、すぐ母の方に行った。厚い窓掛を片寄せて、手探《てさぐ》りに探って見ると、案外にも立派に硝子戸《ガラスど》が締《し》まっていた。
「御母さんこっちは雨なんか這入《はい》りゃしませんよ。大丈夫です、この通りだから」
 自分はこう云いながら、母の足の方に当る硝子を、とんとんと手で叩《たた》いて見せた。
「おや雨は這入らないのかい」
「這入るものですか」
 母は微笑した。
「いつ頃《ごろ》から雨が降り出したか御母さんはちっとも知らなかったよ」
 母はさも愛想《あいそ》らしくまた弁疏《いいわけ》らしく口を利《き》いて、「二郎、御苦
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