した。
「だって立つとなれば、なるたけ早く用意しておいた方が都合が好いからね」
「そうですとも」
 嫂のこの返事は、自分が何か云おうとする先《せん》を越して声に応ずる響のごとく出た。
「じゃ縄《なわ》でも絡《から》げましょう。男の役だから」
 自分は兄と反対に車夫や職人のするような荒仕事に妙を得ていた。ことに行李《こり》を括《くく》るのは得意であった。自分が縄を十文字に掛け始めると、嫂《あによめ》はすぐ立って兄のいる室《へや》の方に行った。自分は思わずその後姿を見送った。
「二郎兄さんの機嫌《きげん》はどうだったい」と母がわざわざ小さな声で自分に聞いた。
「別にこれと云う事もありません。なあに心配なさる事があるもんですか。大丈夫です」と自分はことさらに荒っぽく云って、右足で行李の蓋《ふた》をぎいぎい締めた。
「実はお前にも話したい事があるんだが。東京へでも帰ったらいずれまたゆっくりね」
「ええゆっくり伺いましょう」
 自分はこう無造作《むぞうさ》に答えながら、腹の中では母のいわゆる話なるものの内容を朧気《おぼろげ》ながら髣髴《ほうふつ》した。
 しばらくすると、兄と嫂が別席から出て来た
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