嫂が潔白だからというよりも嫂に新たなる同情が加わったからと云う方が適切かも知れなかった。云い換えると、自分は兄をそれだけ軽蔑《けいべつ》し始めたのである。席を立つ時などは多少彼に対する敵愾心《てきがいしん》さえ起った。
自分が室《へや》へ帰って来た時、母はもう浴衣《ゆかた》を畳んではいなかった。けれども小さい行李《こり》の始末に余念なく手を動かしていた。それでも心は手許《てもと》になかったと見えて、自分の足音を聞くや否や、すぐこっちを向いた。
「兄さんは」
「今来るでしょう」
「もう話は済んだの」
「済むの済まないのって、始めからそんな大した話じゃないんです」
自分は母の気を休めるため、わざと蒼蠅《うるさ》そうにこう云った。母はまた行李の中へ、こまごましたものを出したり入れたりし始めた。自分は今度は彼《か》の女《じょ》に恥じて、けっして傍《そば》に手伝っている嫂の顔をあえて見なかった。それでも彼女の若くて淋《さむ》しい唇《くちびる》には冷かな笑の影が、自分の眼を掠《かす》めるように過ぎた。
「今から荷造りですか。ちっと早過ぎるな」と自分はわざと年を取った母を嘲《あざ》けるごとく注意
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