他《ひと》から見たら、どこかに得意の光を帯びていたのではあるまいか。自分は立ちながら、次の室《へや》で浴衣《ゆかた》を畳んでいた母の方をちょっと顧て、思わず立竦《たちすく》んだ。母の眼つきは先刻《さっき》からたった一人でそっと我々を観察していたとしか見えなかった。自分は母から疑惑の矢を胸に射つけられたような気分で兄のいる室へ這入《はい》った。
 その頃はちょうど旧暦の盆で、いわゆる盆波《ぼんなみ》の荒いためか、泊り客は無論、日返りの遊び客さえいつもほどは影を見せなかった。広い三階建てはしたがって空《あ》いている室の方が多かった。少しの間融通しようと思えば、いつでも自分の自由になった。
 兄は兼《かね》てから下女に命じておいたものと見えて、室には麻の蒲団《ふとん》が差し向いに二枚、華奢《きゃしゃ》な煙草盆《たばこぼん》を間に、団扇《うちわ》さえ添えて据《す》えられてあった。自分は兄の前に坐った。けれども何と云い出して然《しか》るべきだか、その手加減がちょっと解らないので、ただ黙っていた。兄も容易に口を開かなかった。しかしこんな場合になると性質上きっと兄の方から積極的に出るに違いないと踏ん
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