と聞いた。自分は自分の留守中に兄が万事を母に打ち明けたのかと思った。しかし兄の平生から察すると、そんな行き抜けの人《ひと》となりでもなさそうであった。
「兄さんは昨夕僕らが帰らないんで、機嫌《きげん》でも悪くしているんですか」
 自分がこう質問をかけた時、母は少しの間黙っていた。
「昨夕《ゆうべ》はね、知っての通りの浪《なみ》や風だから、そんな話をする閑《ひま》も無かったけれども……」
 母はどうしてもそこまでしか云わなかった。
「お母さんは何だか僕と嫂《ねえ》さんの仲を疑ぐっていらっしゃるようだが……」と云いかけると、今まで自分の眼をじっと見ていた母は急に手を振って自分を遮《さえぎ》った。
「そんな事があるものかねお前、お母さんに限って」
 母の言葉は実際|判然《はっきり》した言葉に違なかった。顔つきも眼つきもきびきびしていた。けれども彼女の腹の中はとても読めなかった。自分は親身《しんみ》の子として、時たま本当の父や母に向いながら嘘《うそ》と知りつつ真顔で何か云い聞かされる事を覚えて以来、世の中で本式の本当を云い続けに云うものは一人もないと諦《あきら》めていた。
「兄さんには僕から万
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