する事もできない。電灯の消えたのは、何でもここいら近所にある柱が一本とか二本とか倒れたためだってね」
「そうよ、そんな事を先刻《さっき》下女が云ったわね」
「御母さんと兄さんはどうしたでしょう」
「妾《あたし》も先刻からその事ばかり考えているの。しかしまさか浪《なみ》は這入《はい》らないでしょう。這入ったって、あの土手の松の近所にある怪しい藁屋《わらや》ぐらいなものよ。持ってかれるのは。もし本当の海嘯が来てあすこ界隈《かいわい》をすっかり攫《さら》って行くんなら、妾本当に惜しい事をしたと思うわ」
「なぜ」
「なぜって、妾そんな物凄《ものすご》いところが見たいんですもの」
「冗談じゃない」と自分は嫂の言葉をぶった切るつもりで云った。すると嫂は真面目に答えた。
「あら本当よ二郎さん。妾死ぬなら首を縊《くく》ったり咽喉《のど》を突いたり、そんな小刀細工をするのは嫌《きらい》よ。大水に攫われるとか、雷火に打たれるとか、猛烈で一息な死に方がしたいんですもの」
 自分は小説などをそれほど愛読しない嫂から、始めてこんなロマンチックな言葉を聞いた。そうして心のうちでこれは全く神経の昂奮《こうふん》から
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