る和歌の浦の宿へかけて見た。すると不思議に向うで二言三言何か云ったような気がするので、これはありがたいと思いつつなお暴風雨《あらし》の模様を聞こうとすると、またさっぱり通じなくなった。それから何遍もしもしと呼んでもいくら号鈴を鳴らしても、呼《よ》び甲斐《がい》も鳴らし甲斐も全く無くなったので、ついに我《が》を折ってわが部屋へ引き戻して来た。嫂は蒲団《ふとん》の上に坐《すわ》って茶を啜《すす》っていたが、自分の足音を聴きつつふり返って、「電話はどうして? 通じて?」と聞いた。自分は電話について今の一部始終《いちぶしじゅう》を説明した。
「おおかたそんな事だろうと思った。とても駄目よ今夜は。いくらかけたって、風で電話線を吹き切っちまったんだから。あの音を聞いたって解るじゃありませんか」
 風はどこからか二筋に綯《よ》れて来たのが、急に擦違《すれちがい》になって唸《うな》るような怪しい音を立てて、また虚空遥《こくうはるか》に騰《のぼ》るごとくに見えた。

        三十五

 二人が風に耳を峙《そば》だてていると、下女が風呂の案内に来た。それから晩食《ばんめし》を食うかと聞いた。自分は
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