晩食などを欲しいと思う気になれなかった。
「どうします」と嫂《あによめ》に相談して見た。
「そうね。どうでもいいけども。せっかく泊ったもんだから、御膳《おぜん》だけでも見た方がいいでしょう」と彼女は答えた。
 下女が心得て立って行ったかと思うと、宅中《うちじゅう》の電灯がぱたりと消えた。黒い柱と煤《すす》けた天井でたださえ陰気な部屋が、今度は真暗《まっくら》になった。自分は鼻の先に坐《すわ》っている嫂を嗅《か》げば嗅がれるような気がした。
「姉さん怖《こわ》かありませんか」
「怖いわ」という声が想像した通りの見当で聞こえた。けれどもその声のうちには怖らしい何物をも含んでいなかった。またわざと怖がって見せる若々しい蓮葉《はすは》の態度もなかった。
 二人は暗黒のうちに坐っていた。動かずにまた物を云わずに、黙って坐っていた。眼に色を見ないせいか、外の暴風雨《あらし》は今までよりは余計耳についた。雨は風に散らされるのでそれほど恐ろしい音も伝えなかったが、風は屋根も塀《へい》も電柱も、見境《みさかい》なく吹き捲《めく》って悲鳴を上げさせた。自分達の室《へや》は地面の上の穴倉みたような所で、四方
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