に懸けた古めかしい座敷であった。柱は時代で黒く光っていた。天井《てんじょう》にも煤《すす》の色が一面に見えた。嫂は例の傘を次の間《ま》の衣桁《いこう》に懸けて、「ここは向うが高い棟《むね》で、こっちが厚い練塀《ねりべい》らしいから風の音がそんなに聞えないけれど、先刻《さっき》俥へ乗った時は大変ね。幌《ほろ》の上でひゅひゅいうのが気味が悪かったぐらいよ。あなた風の重みが俥の幌に乗《の》しかかって来るのが乗ってて分ったでしょう。妾《あたし》もう少しで俥が引《ひ》っ繰返《くりかえ》るかも知れないと思ったわ」と云った。
 自分は少し逆上していたので、そんな事はよく注意していられなかった。けれどもその通りを真直《まっすぐ》に答えるほどの勇気もなかった。
「ええずいぶんな風でしたね」とごまかした。
「ここでこのくらいじゃ、和歌の浦はさぞ大変でしょうね」と嫂が始めて和歌の浦の事を云い出した。
 自分は胸がまたわくわくし出した。「姐《ねえ》さんここの電話も切れてるのかね」と云って、答えも待たずに風呂場に近い電話口まで行った。そこで帳面を引っ繰返しながら、号鈴《ベル》をしきりに鳴らして、母と兄の泊ってい
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