ったが最後、とうてい真底から誠実に兄のために計る事はできないのだとまで思った。自分は言葉には少しも窮しなかった。どんな言語でも兄のために使おうとすれば使われた。けれどもそれを使う自分の心は、兄のためでなくってかえって自分のために使うのと同じ結果になりやすかった。自分はけっしてこんな役割を引き受けべき人格でなかった。自分は今更のように後悔した。
「あなた急に黙っちまったのね」とその時嫂が云った。あたかも自分の急所を突くように。
「兄さんのために、僕が先刻《さっき》からあなたに頼んでいる事を、姉さんは真面目に聞いて下さらないから」
自分は恥ずかしい心を抑《おさ》えてわざとこう云った。すると嫂は変に淋《さみ》しい笑い方をした。
「だってそりゃ無理よ二郎さん。妾馬鹿で気がつかないから、みんなから冷淡と思われているかも知れないけれど、これで全くできるだけの事を兄さんに対してしている気なんですもの。――妾ゃ本当に腑抜《ふぬけ》なのよ。ことに近頃は魂《たましい》の抜殻《ぬけがら》になっちまったんだから」
「そう気を腐《くさ》らせないで、もう少し積極的にしたらどうです」
「積極的ってどうするの。御世
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