年になりますかね」と聞いた。
嫂《あによめ》はただ澄まして「そうね」と云った。
「妾《あたし》そんな事みんな忘れちまったわ。だいち自分の年さえ忘れるくらいですもの」
嫂のこの恍《とぼ》け方《かた》はいかにも嫂らしく響いた。そうして自分にはかえって嬌態《きょうたい》とも見えるこの不自然が、真面目《まじめ》な兄にはなはだしい不愉快を与えるのではなかろうかと考えた。
「姉さんは自分の年にさえ冷淡なんですね」
自分はこんな皮肉を何となく云った。しかし云ったときの浮気《うわき》な心にすぐ気がつくと急に兄にすまない恐ろしさに襲われた。
「自分の年なんかに、いくら冷淡でも構わないから、兄さんにだけはもう少し気をつけて親切にして上げて下さい」
「妾そんなに兄さんに不親切に見えて。これでもできるだけの事は兄さんにして上げてるつもりよ。兄さんばかりじゃないわ。あなたにだってそうでしょう。ねえ二郎さん」
自分は、自分にもっと不親切にして構わないから、兄の方には最《もう》少し優しくしてくれろと、頼むつもりで嫂の眼を見た時、また急に自分の甘《あま》いのに気がついた。嫂の前へ出て、こう差し向いに坐《すわ》
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