云った時、嫂はただ「ええ」と答えただけであった。母が「今日はお止《よ》しよ」と止《と》めた時、嫂はまた「ええ」と答えただけであった。自分が「姉さんどうします」と顧《かえり》みた時は、また「どうでも好いわ」と答えた。
自分はちょっと用事に下へ降りた。すると母がまた後《あと》から降りて来た。彼女の様子は何だかそわそわしていた。
「御前本当に直と二人で和歌山へ行く気かい」
「ええ、だって兄さんが承知なんですもの」
「いくら承知でも御母さんが困るから御止《およ》しよ」
母の顔のどこかには不安の色が見えた。自分はその不安の出所《でどころ》が兄にあるのか、または嫂と自分にあるか、ちょっと判断に苦しんだ。
「なぜです」と聞いた。
「なぜですって、御前と直と行くのはいけないよ」
「兄さんに悪いと云うんですか」
自分は露骨にこう聞いて見た。
「兄さんに悪いばかりじゃないが……」
「じゃ姉さんだの僕だのに悪いと云うんですか」
自分の問は前よりなお露骨であった。母は黙ってそこに佇《たた》ずんでいた。自分は母の表情に珍らしく猜疑《さいぎ》の影を見た。
二十七
自分は自分を信じ切り
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