ら出かけようじゃありませんか。俥《くるま》もすでに誂《あつら》えてありますから」
母は何とも云わずに自分の顔を見た。
「そりゃ行っても好いけれど、行くなら皆《みん》なでいっしょに行こうじゃないか」
自分はその方が遥《はるか》に楽《らく》であった。でき得るならどうか母の御供をして、和歌山行をやめたいと考えた。
「じゃ僕達もいっしょにその切り開いた山道の方へ行って見ましょうか」と云いながら立ちかけた。すると嶮《けわ》しい兄の眼がすぐ自分の上に落ちた。自分はとうていこれでは約束を履行《りこう》するよりほかに道がなかろうとまた思い返した。
「そうそう姉さんと約束があったっけ」
自分は兄に対して、つい空惚《そらとぼ》けた挨拶《あいさつ》をしなければすまなくなった。すると母が今度は苦《にが》い顔をした。
「和歌山はやめにおしよ」
自分は母と兄の顔を見比べてどうしたものだろうと躊躇《ちゅうちょ》した。嫂《あによめ》はいつものように冷然としていた。自分が母と兄の間に迷っている間、彼女はほとんど一言《いちごん》も口にしなかった。
「直《なお》御前二郎に和歌山へ連れて行って貰うはずだったね」と兄が
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