差支《さしつか》えないだろう」
 自分はなぜかそれが厭《いや》だった。東京へ帰ってゆっくり折を見ての事にしたいと思ったが、片方を断った今更一方も否《いや》とは云いかねて、とうとう和歌山見物だけは引き受ける事にした。

        二十六

 その明くる朝は起きた時からあいにく空に斑《ふ》が見えた。しかも風さえ高く吹いて例の防波堤《ぼうはてい》に崩《くだ》ける波の音が凄《すさま》じく聞え出した。欄干《らんかん》に倚《よ》って眺めると、白い煙が濛々《もうもう》と岸一面を立て籠《こ》めた。午前は四人とも海岸に出る気がしなかった。
 午《ひる》過ぎになって、空模様は少し穏かになった。雲の重なる間から日脚《ひあし》さえちょいちょい光を出した。それでも漁船が四五|艘《そう》いつもより早く楼前《ろうぜん》の掘割《ほりわり》へ漕《こ》ぎ入れて来た。
「気味が悪いね。何だか暴風雨《あらし》でもありそうじゃないか」
 母はいつもと違う空を仰いで、こう云いながらまた元の座敷へ引返《ひっかえ》して来た。兄はすぐ立ってまた欄干へ出た。
「何大丈夫だよ。大した事はないにきまっている。御母さん僕が受け合いますか
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