たり》は存外|静《しずか》であった。自分はそこいらを見廻して、最後に我々二人の淋《さび》しい姿をその一隅に見出した時、薄気味の悪い心持がした。
「試すって、どうすれば試されるんです」
「御前と直が二人で和歌山へ行って一晩泊ってくれれば好いんだ」
「下らない」と自分は一口に退《しり》ぞけた。すると今度は兄が黙った。自分は固《もと》より無言であった。海に射《い》りつける落日《らくじつ》の光がしだいに薄くなりつつなお名残《なごり》の熱を薄赤く遠い彼方《あなた》に棚引《たなび》かしていた。
「厭《いや》かい」と兄が聞いた。
「ええ、ほかの事ならですが、それだけは御免《ごめん》です」と自分は判切《はっき》り云い切った。
「じゃ頼むまい。その代りおれは生涯《しょうがい》御前を疑ぐるよ」
「そりゃ困る」
「困るならおれの頼む通りやってくれ」
自分はただ俯向《うつむ》いていた。いつもの兄ならもう疾《とく》に手を出している時分であった。自分は俯向《うつむ》きながら、今に兄の拳《こぶし》が帽子の上へ飛んで来るか、または彼の平手《ひらて》が頬のあたりでピシャリと鳴るかと思って、じっと癇癪玉《かんしゃくだま
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