ているとしか自分には見えなかった。
「二郎おれは御前を信用している。御前の潔白な事はすでに御前の言語が証明している。それに間違はないだろう」
「ありません」
「それでは打ち明けるが、実は直《なお》の節操《せっそう》を御前に試《ため》して貰《もら》いたいのだ」
自分は「節操を試す」という言葉を聞いた時、本当に驚いた。当人から驚くなという注意が二遍あったにかかわらず、非常に驚いた。ただあっけに取られて、呆然《ぼうぜん》としていた。
「なぜ今になってそんな顔をするんだ」と兄が云った。
自分は兄の眼に映じた自分の顔をいかにも情《なさけ》なく感ぜざるを得なかった。まるでこの間の会見とは兄弟地を換えて立ったとしか思えなかった。それで急に気を取り直した。
「姉さんの節操を試すなんて、――そんな事は廃《よ》した方が好いでしょう」
「なぜ」
「なぜって、あんまり馬鹿らしいじゃありませんか」
「何が馬鹿らしい」
「馬鹿らしかないかも知れないが、必要がないじゃありませんか」
「必要があるから頼むんだ」
自分はしばらく黙っていた。広い境内《けいだい》には参詣人《さんけいにん》の影も見えないので、四辺《あ
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