まいがわれにはいっこう関係がないという風をしていた。これは風というよりもむしろ彼女《かのじょ》の性質であった。自分はそれでも兄が先刻《さっき》の会談のあと、よくこれほどに昂奮《こうふん》した神経を治められたものだと思ってひそかに感心した。
晩は寝られなかった。昨夕《ゆうべ》よりもなお寝られなかった。自分はどどんどどんと響く浪《なみ》の音の間に、兄夫婦の寝ている室《へや》に耳を澄ました。けれども彼らの室は依然として昨夜のごとく静《しずか》であった。自分は母に見咎《みとが》められるのを恐れて、その夜《よ》はあえて縁側《えんがわ》へ出なかった。
朝になって自分は母と嫂を例の東洋第一エレヴェーターへ案内した。そうして昨日《きのう》のように山の上の猿に芋《いも》をやった。今度は猿に馴染《なじみ》のある宿の女中がいっしょに随《つ》いて来たので、猿を抱いたり鳴かしたり前の日よりはだいぶ賑《にぎ》やかだった。母は茶店の床几《しょうぎ》に腰をかけて、新和歌《しんわか》の浦《うら》とかいう禿《は》げて茶色になった山を指《さ》して何だろうと聞いていた。嫂はしきりに遠眼鏡《とおめがね》はないか遠眼鏡はない
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