見物して来た所は紀三井寺《きみいでら》であった。玉津島明神《たまつしまみょうじん》の前を通りへ出て、そこから電車に乗るとすぐ寺の前へ出るのだと母は兄に説明していた。
「高い石段でね。こうして見上げるだけでも眼が眩《ま》いそうなんだよ、お母さんには。これじゃとても上《のぼ》れっこないと思って、妾《わたし》ゃどうしようか知らと考えたけれども、直に手を引っ張って貰《もら》って、ようやくお参りだけは済ませたが、その代り汗で着物がぐっしょりさ……」
 兄は「はあ、そうですかそうですか」と時々気のない返事をした。

        二十三

 その日は何事も起らずに済んだ。夕方は四人《よつたり》でトランプをした。みんなが四枚ずつのカードを持って、その一枚を順送りに次の者へ伏せ渡しにするうちに数の揃《そろ》ったのを出してしまうと、どこかにスペードの一が残る。それを握ったものが負になるという温泉場などでよく流行《はや》る至極《しごく》簡単なものであった。
 母と自分はよくスペードを握っては妙な顔をしてすぐ勘《かん》づかれた。兄も時々苦笑した。一番冷淡なのは嫂《あによめ》であった。スペードを握ろうが握る
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