っと」
「だって御前の顔は赤いじゃないか」
 実際その時の自分の顔は赤かったかも知れない。兄の面色《めんしょく》の蒼《あお》いのに反して、自分は我知らず、両方の頬の熱《ほて》るのを強く感じた。その上自分は何と返事をして好いか分らなかった。
 すると兄は何と思ったかたちまち階段から腰を起した。そうして腕組をしながら、自分の席を取っている前を右左に歩き出した。自分は不安な眼をして、彼の姿を見守った。彼は始めから眼を地面の上に落していた。二三度自分の前を横切ったけれどもけっして一遍もその眼を上げて自分を見なかった。三度目に彼は突如として、自分の前に来て立ち留った。
「二郎」
「はい」
「おれは御前の兄だったね。誠に子供らしい事を云って済まなかった」
 兄の眼の中には涙がいっぱい溜《たま》っていた。
「なぜです」
「おれはこれでも御前より学問も余計したつもりだ。見識も普通の人間より持っているとばかり今日《こんにち》まで考えていた。ところがあんな子供らしい事をつい口にしてしまった。まことに面目《めんぼく》ない。どうぞ兄を軽蔑《けいべつ》してくれるな」
「なぜです」
 自分は簡単なこの問を再び繰返
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