だ。形式上の答えはおれにも聞かない先から解っているが、ただ聞きたいのは、もっと奥の奥の底にある御前の感じだ。その本当のところをどうぞ聞かしてくれ」

        十九

「そんな腹の奥の奥底にある感じなんて僕に有るはずがないじゃありませんか」
 こう答えた時、自分は兄の顔を見ないで、山門の屋根を眺めていた。兄の言葉はしばらく自分の耳に聞こえなかった。するとそれが一種の癇高《かんだか》い、さも昂奮《こうふん》を抑《おさ》えたような調子になって響いて来た。
「おい二郎何だってそんな軽薄な挨拶《あいさつ》をする。おれと御前は兄弟じゃないか」
 自分は驚いて兄の顔を見た。兄の顔は常磐木《ときわぎ》の影で見るせいかやや蒼味《あおみ》を帯びていた。
「兄弟ですとも。僕はあなたの本当の弟《おとと》です。だから本当の事を御答えしたつもりです。今云ったのはけっして空々しい挨拶でも何でもありません。真底そうだからそういうのです」
 兄の神経の鋭敏なごとく自分は熱しやすい性急《せっかち》であった。平生の自分ならあるいはこんな返事は出なかったかも知れない。兄はその時簡単な一句を射た。
「きっと」
「ええき
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