すか」と自分はやむを得ず兄に聞き返した。
「直は御前に惚《ほ》れてるんじゃないか」
 兄の言葉は突然であった。かつ普通兄のもっている品格にあたいしなかった。
「どうして」
「どうしてと聞かれると困る。それから失礼だと怒られてはなお困る。何も文《ふみ》を拾ったとか、接吻《せっぷん》したところを見たとか云う実証から来た話ではないんだから。本当いうと表向《おもてむき》こんな愚劣な問を、いやしくも夫たるおれが、他人に向ってかけられた訳のものではない。ないが相手が御前だからおれもおれの体面を構わずに、聞き悪いところを我慢して聞くんだ。だから云ってくれ」
「だって嫂さんですぜ相手は。夫のある婦人、ことに現在の嫂ですぜ」
 自分はこう答えた。そうしてこう答えるよりほかに何と云う言葉も出なかった。
「それは表面の形式から云えば誰もそう答えなければならない。御前も普通の人間だからそう答えるのが至当だろう。おれもその一言《いちごん》を聞けばただ恥じ入るよりほかに仕方がない。けれども二郎御前は幸いに正直な御父さんの遺伝を受けている。それに近頃の、何事も隠さないという主義を最高のものとして信じているから聞くの
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