した。
「なぜですとそう真面目《まじめ》に聞いてくれるな。ああおれは馬鹿だ」
兄はこう云って手を出した。自分はすぐその手を握った。兄の手は冷たかった。自分の手も冷たかった。
「ただ御前の顔が少しばかり赤くなったからと云って、御前の言葉を疑ぐるなんて、まことに御前の人格に対して済まない事だ。どうぞ堪忍《かんにん》してくれ」
自分は兄の気質が女に似て陰晴常なき天候のごとく変るのをよく承知していた。しかし一《ひ》と見識《けんしき》ある彼の特長として、自分にはそれが天真爛漫《てんしんらんまん》の子供らしく見えたり、または玉のように玲瓏《れいろう》な詩人らしく見えたりした。自分は彼を尊敬しつつも、どこか馬鹿にしやすいところのある男のように考えない訳に行かなかった。自分は彼の手を握ったまま「兄さん、今日は頭がどうかしているんですよ。そんな下らない事はもうこれぎりにしてそろそろ帰ろうじゃありませんか」と云った。
二十
兄は突然自分の手を放した。けれどもけっしてそこを動こうとしなかった。元の通り立ったまま何も云わずに自分を見下した。
「御前|他《ひと》の心が解るかい」と突然聞
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