やったり、調戯《からか》ったりして、物の十分もその茶屋で費やした。
「どこか二人だけで話す所はないかな」
 兄はこう云って四方《あたり》を見渡した。その眼は本当に二人だけで話のできる静かな場所を見つけているらしかった。

        十七

 そこは高い地勢のお蔭で四方ともよく見晴らされた。ことに有名な紀三井寺《きみいでら》を蓊欝《こんもり》した木立《こだち》の中に遠く望む事ができた。その麓《ふもと》に入江らしく穏かに光る水がまた海浜《かいひん》とは思われない沢辺《さわべ》の景色を、複雑な色に描き出していた。自分は傍《そば》にいる人から浄瑠璃《じょうるり》にある下《さが》り松《まつ》というのを教えて貰った。その松はなるほど懸崖《けんがい》を伝うように逆《さか》に枝を伸《の》していた。
 兄は茶店の女に、ここいらで静《しずか》な話をするに都合の好い場所はないかと尋ねていたが、茶店の女は兄の問が解らないのか、何を云っても少しも要領を得なかった。そうして地方訛《ちほうなまり》ののし[#「のし」に傍点]とかいう語尾をしきりに繰返した。
 しまいに兄は「じゃその権現様《ごんげんさま》へでも行
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