「妾《わたくし》はどうでも構いません」と答えた。それがおとなしいとも取れるし、また聴きようでは、冷淡とも無愛想とも取れた。それを自分は兄に対して気の毒と思い嫂に対しては損だと考えた。
二人は浴衣《ゆかた》がけで宿を出ると、すぐ昇降器へ乗った。箱は一間四方くらいのもので、中に五六人|這入《はい》ると戸を閉めて、すぐ引き上げられた。兄と自分は顔さえ出す事のできない鉄の棒の間から外を見た。そうして非常に欝陶《うっとう》しい感じを起した。
「牢屋見たいだな」と兄が低い声で私語《ささや》いた。
「そうですね」と自分が答えた。
「人間もこの通りだ」
兄は時々こんな哲学者めいた事をいう癖があった。自分はただ「そうですな」と答えただけであった。けれども兄の言葉は単にその輪廓《りんかく》ぐらいしか自分には呑み込めなかった。
牢屋に似た箱の上《のぼ》りつめた頂点は、小さい石山の天辺《てっぺん》であった。そのところどころに背の低い松が噛《かじ》りつくように青味を添えて、単調を破るのが、夏の眼に嬉《うれ》しく映った。そうしてわずかな平地《ひらち》に掛茶屋があって、猿が一匹飼ってあった。兄と自分は猿に芋を
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