ように眺めていた。
「二郎、今朝《けさ》ちょっとあの昇降器へ乗って見ようじゃないか」と兄が突然云った。
自分は兄にしてはちと子供らしい事を云うと思って、ひょっと後《うしろ》を顧《かえり》みた。
「何だか面白そうじゃないか」と兄は柄《がら》にもない稚気《ちき》を言葉に現した。自分は昇降器へ乗るのは好いが、ある目的地へ行けるかどうかそれが危《あや》しかった。
「どこへ行けるんでしょう」
「どこだって構わない。さあ行こう」
自分は母と嫂《あによめ》も無論いっしょに連れて行くつもりで、「さあさあ」と大きな声で呼び掛けた。すると兄は急に自分を留めた。
「二人で行こう。二人ぎりで」と云った。
そこへ母と嫂が「どこへ行くの」と云って顔を出した。
「何ちょっとあのエレヴェーターへ乗って見るんです。二郎といっしょに。女には剣呑《けんのん》だから、御母さんや直《なお》は止した方が好いでしょう。僕らがまあ乗って、試《ため》して見ますから」
母は虚空《こくう》に昇って行く鉄の箱を見ながら気味の悪そうな顔をした。
「直お前どうするい」
母がこう聞いた時、嫂は例の通り淋《さむ》しい靨《えくぼ》を寄せて、
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