画《え》について、何かまた批評を加えるに違いないと思った。
「何です」と答えた。
「先刻《さっき》汽車の中で話しが出た、あの三沢の事だね。お前はどう思う」
兄の質問は実際自分に取って意外であった。彼はなぜその話しを今まで自分に聞かせなかったと汽車の中で問われた時、すでに苦《にが》い顔をして必要がないからだと答えたばかりであった。
「例の接吻《キッス》の話ですか」と自分は聞き返した。
「いえ接吻じゃない。その女が三沢の出る後《あと》を慕って、早く帰って来てちょうだいと必ず云ったという方の話さ」
「僕には両方共面白いが、接吻の方が何だかより多く純粋でかつ美しい気がしますね」
この時自分達は二階の梯子段《はしごだん》を半分ほど降りていた。兄はその中途でぴたりと留《とま》った。
「そりゃ詩的に云うのだろう。詩を見る眼で云ったら、両方共等しく面白いだろう。けれどもおれの云うのはそうじゃない。もっと実際問題にしての話だ」
十二
自分には兄の意味がよく解らなかった。黙って梯子段の下まで降りた。兄も仕方なしに自分の後《あと》に跟《つ》いて来た。風呂場の入口で立ち留った自分は、
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