分もそれを好い機《しお》にすぐ舌戦を切り上げた。お重も団扇を縁側へ投げ出しておとなしく食卓に着いた。
局面が一転した後《あと》なので、秘密らしい秘密は、食事中ついにお重の口から洩《も》れる機会がなかった。母も嫂《あによめ》もまるでそれには取り合う気色《けしき》も見せなかった。平吉という男が裏から出て来て、庭に水を打った。「まだそう燥《かわ》いていないんだから、好い加減にしておおき」と母が云っていた。
二十七
その晩番町を出たのは灯火《あかり》が点《つ》いてまだ間もない宵《よい》の口であった。それでも飯を済ましてから約一時間半ほどは、そこへ坐《すわ》り込んだまま、みんなを相手に喋舌《しゃべ》っていた。
自分はその一時間半の間に、とうとうお重から例の秘密をあばかれる羽目に陥《おちい》った。しかしそれが自分に取っては、秘密でも何でもない例の結婚問題だったので、自分はかえって安心した。
「御母さん、兄さんは妾達《あたしたち》に隠れてこの間見合をなすったんですって」
「隠れて見合なんかするものか」
自分は母がまだ何とも云わないうちにお重の言葉を遮《さえぎ》った。
「いいえたしかな筋からちゃんと聞いて来たんだから、いくら白ばっくれてももう駄目よ」
たしかな筋というような一種の言葉が、お重の口から出るのを聞いたとき、自分は思わず苦笑した。
「馬鹿だなお前は」
「馬鹿でもいいわよ」
お重は六月二日の出来事を母や嫂《あによめ》に向ってべらべら喋舌《しゃべ》り出した。それがなかなか精《くわ》しいので自分は少し驚いた。どこからその知識を得て来たのだろうという好奇心が強く自分の反問を促《うなが》した。けれどもお重はただ意地の悪い微笑を洩《も》らすのみで、けっして出所《しゅっしょ》を告げなかった。
「兄さんが妾達に黙っているのは、きっと打ち明けて云い悪《にく》い訳があるからなのよ。ね、そうでしょう、兄さん」
お重は自分の好奇心を満足させないのみか、かえって向うからこっちを嬲《なぶ》りにかかった。自分は「どうでも好いや」と云った。母から真面目《まじめ》に事の顛末《てんまつ》を聞かれた時、自分は簡単にありのままを答えた。
「ただそれだけの事なんです。しかも向《むこう》じゃ全く知らないんだからそのつもりでいて下さい。お重見たいに好い加減な事を云い触らすと、僕はどう
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