層不安になった。
下宿に帰ったら、大阪の岡田から来た一枚の絵端書《えはがき》が机の上に載せてあった。それは彼ら夫婦が佐野とお貞さんを誘って、楽しい半日を郊外に暮らした記念であった。自分は机に向って長い間その絵端書を見つめていた。
七
日曜には思い切って寝坊をする癖のついていた自分も、次の朝だけは割合に早く起きた。飯を済まして新聞を読むと、その新聞が汽車を待ち合せる間に買って、せわしなく眼を通す時のように、何の見るところもないほど、つまらなく感ぜられた。自分はすぐ新聞を棄《す》てた。しかし五六分|経《た》たないうちにまたそれを取り上げた。自分は煙草を吸ったり、眼鏡《めがね》の曇《くもり》を丁寧《ていねい》に拭《ぬぐ》ったり、いろいろな所作《しょさ》をして、父の来るのを待ち受けた。
父は容易に来なかった。自分は父の早起をよく承知していた。彼の性急《せっかち》にも子供のうちから善《よ》く馴《な》らされていた。落ちつかない自分は、電話でもかけて、どうしたのかこっちから父の都合を聞いて見ようかと思った。
母に狎《な》れ抜いた自分は、常から父を憚《はばか》っていた。けれども、本当の底を割って見ると、柔和《やさ》しい母の方が、苛酷《きび》しい父よりはかえって怖《こわ》かった。自分は父に怒られたり小言を云われたりする時に、恐縮はしながらも、やっぱり男は男だと腹の中で思う事がたびたびあった。けれどもこの場合はいつもと違っていた。いくら父でもそう容易《たやす》く高を括《くく》る訳に行かなかった。電話をかけようとした自分はまたかけ得ずにしまった。
父はとうとう十時頃になってやって来た。羽織《はおり》袴《はかま》で少しきまり過ぎた服装《なり》はしていたが、顔つきは存外穏かであった。小さい時から彼の手元で育った自分は、事のあるかないかを彼の顔色からすぐ判断する功を積んでいた。
「もっと早くおいでだろうと思って先刻《さっき》から待っていました」
「おおかた床の中で待ってたんだろう。早いのはいくら早くっても驚かないが、御前に気の毒だからわざと遅く出かけたのさ」
父は自分の汲《く》んで出した茶を、飲むように甞《な》めるように、口の所へ持って行って、室《へや》の中をじろじろ見廻した。室には机と本箱と火鉢があるだけであった。
「好い室だね」
父は自分達に対してもよくこ
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