《はる》か世馴《よな》れている。この体《てい》を見て、
「さっきから来るだろうと思って待っていた。さあ上《あが》れ」
と向うから始末をつけてくれた。この人は世馴れた知識を応用して、世馴れない人を救《たす》ける方の側《がわ》だと感心した。こいつを逆にして馬鹿にされつけていたから特別に感心したんだろう。そこで安さんの云う通り長屋へ上って見た。部屋はやっぱり広いが、自分の泊った所ほどでもない。電気灯は点《つ》いている。囲炉裏《いろり》もある。ただ人数《にんず》が少い、しめて五六人しかいない。しかも、それが向うに塊《かたま》ってるから、こっちはたった二人である。そこでまた話を始めた。
「いつ帰る」
「帰らない事にしました」
 安さんは馬鹿だなあと云わないばかりの顔をして呆《あき》れている。
「あなたのおっしゃった事は、よく分っています。しかし僕だって、酔興《すいきょう》にここまで来た訳じゃないんですから、帰るったって帰る所はありません」
「じゃやっぱり世の中へ顔が出せないような事でもしたのか」
と安さんは鋭い口調で聞いた。何だか向うの方がぎょっとしたらしい。
「そうでもないんですが――世の中へ
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