も生きて働く考えである。こう考えながら半丁ほどの路を降りて飯場《はんば》へ帰って、二階へ上がった。上がると案のじょう大勢|囲炉裏《いろり》の傍《そば》に待ち構えている。自分はくさくさしたが、できるだけ何喰わぬ顔をして、邪魔にならないような所へ坐った。すると始まった。皮肉だか、冷評だか、罵詈《ばり》だか、滑稽《こっけい》だか、のべつに始まった。
一々覚えている。生涯《しょうがい》忘れられないほどに、自分の柔らかい頭を刺激したから、よく覚えている。しかし一々繰返す必要はない。まず大体|昨日《きのう》と同じ事と思えば好い。自分は急に安さんに逢《あ》いたくなった。例の夕食《ゆうめし》を我慢して二杯食って、みんなの眼につかないようにそっと飯場を抜け出した。
山中組はジャンボー[#「ジャンボー」に傍点]の通った石垣の間を抜けて、だらだら坂の降り際《ぎわ》を、右へ上《のぼ》ると斜《はす》に頭の上に被《かぶ》さっている大きな槐《えんじゅ》の奥にある。夕暮の門口《かどぐち》を覗《のぞ》いたら、一人の掘子《ほりこ》がカンテラの灯《ひ》で筒服《つつっぽう》の掃除をしていた。中は存外静かである。
「安さん
前へ
次へ
全334ページ中310ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング