ない。ただ不断より少々重たくなっている。白い眼はその重たくなっている所を、わざっと、じりじり見て、とうとう親指の痕《あと》が黒くついた俎下駄《まないたげた》の台まで降《くだ》って行った。
 こう書くと、何だか、長く一所《ひとところ》に立っていて、さあ御覧下さいと云わないばかりに振舞ったように思われるがそうじゃない。実は白い眼の運動が始まるや否《いな》や急に茶店へ休むのが厭《いや》になったから、すたすた歩き出したつもりである。にもかかわらず、このつもりが少々|覚束《おぼつか》なかったと見えて、自分が親指にまむしを拵《こしら》えて、俎下駄を捩《ねじ》る間際《まぎわ》には、もう白い眼の運動は済んでいた。残念ながら向うは早いものである。じりじり見るんだから定めし手間が掛かるだろうと思ったら大間違い。じりじりには相違ない、どこまでも落ちついている。がそれで滅法《めっぽう》早い。茶屋の前を通り越しながら、世の中には、妙な作用を持ってる眼があるものだと思ったくらいである。それにしても、ああ緩《ゆっ》くり見られないうちに、早く向き直る工夫はなかったもんだろうか。さんざっ腹《ぱら》冷《ひや》かされて、さ
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