かし口だけは叮嚀《ていねい》に、一言《ひとこと》、
「ええ」
と返事をして置いた。初さんはまだぐずぐずしている。驚いたと云うよりも、やっぱり馬鹿にしたぐずつき方《かた》である。
「おい大丈夫かい。冗談《じょうだん》じゃねえ。顔色が悪いぜ」
「じゃ僕が先へ行きましょう」
と自分はむっとして歩き出した。
「いけねえ、いけねえ。先へ行っちゃいけねえ、後《あと》から尾《つ》いて来ねえ」
「そうですか」
「当前《あたりめえ》だあな。人つけ。誰が案内を置《お》き去《ざり》にして、先へ行く奴があるかい、何でい」
と初さんは、自分を払い退《の》けないばかりにして、先へ出た。出たと思うと急に速力を増した。腰を折ったり、四つに這《は》ったり、背中を横《よこ》っ丁《ちょ》にしたり、頭だけ曲げたり、坑《あな》の恰好《かっこう》しだいでいろいろに変化する。そうして非常に急ぐ。まるで土の中で生れて、銅脈の奥で教育を受けた人間のようである。畜生|中《ちゅう》っ腹《ぱら》で急ぎやがるなと、こっちも負けない気で歩き出したが、そこへ行くと、いくら気ばかり張っていても駄目だ。五つ六つ角を曲って、下りたり上《あが》ったり、が
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