うして時々は白く見えた。次には口を結んだ。すると鼻の奥が鳴った。梯子はまだ尽きない。懸崖《けんがい》からは水が垂れる。ひらりとカンテラ[#「カンテラ」に傍点]を翻《ひるが》えすと、崖《がけ》の面《おもて》を掠《かす》めて弓形にじいと、消えかかって、手の運動の止まる所へ落ちついた時に、また真直に油煙を立てる。また翻《ひるが》えす。灯《ひ》は斜めに動く。梯子の通る一尺幅を外《はず》れて、がんがらがんの壁が眼に映《うつ》る。ぞっとする。眼が眩《くら》む。眼を閉《ねむ》って、登る。灯も見えない、壁も見えない。ただ暗い。手と足が動いている。動く手も動く足も見えない。手障足障《てざわりあしざわり》だけで生きて行く。生きて登って行く。生きると云うのは登る事で、登ると云うのは生きる事であった。それでも――梯子はまだある。
それから先はほとんど夢中だ。自分で登ったのか、天佑《てんゆう》で登ったのかほとんど判然しない。ただ登り切って、もう一段も握る梯子がないと云う事を覚《さと》った時に、坑の中へぴたりと坐った。
「どうした。上がって来たか。途中で死にゃしねえかと思って、――あんまり長えから。見に行こうか
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