いくら手苛《てひど》くきめつけられても、初さんの機嫌がいいうちは結構であった。こうなると得になる事がすなわち結構という意味になる。自分はこれほど堕落して、おめおめ初さんの尻を嗅《か》いで行ったら、路が左の方に曲り込んでまた峻《けわ》しい坂になった。
「おい下りるよ」
と初さんが、後《うしろ》も向かず声を掛けた。その時自分は何となく東京の車夫を思い出して苦しいうちにもおかしかった。が初さんはそれとも気がつかず下《お》り出した。自分も負けずに降りる。路は地面を刻んで段々になっている。四五間ずつに折れてはいるが、勘定したら愛宕様《あたごさま》の高さぐらいはあるだろう。これは一生懸命になって、いっしょに降りた。降りた時にほっと息を吐《つ》くと、その息が何となく苦しかった。しかしこれは深い坑《あな》のなかで、空気の流通が悪いからとばかり考えた。実はこの時すでに身体《からだ》も冒《おか》されていたんである。この苦しい息で二三十間来るとまた模様が変った。
今度は初さんが仰向《あおむ》けに手を突いて、腰から先を入れる。腰から入れるような芸をしなければ通れないほど、坑《あな》の幅も高さも逼《せま》って
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