わしていると、初さんはなかなか起きない。やっぱり這《は》っている。
「どうか、しましたか」
と後から聞いた。初さんは返事もしない。――はてな――怪我でもしやしないかしら――もう一遍聞いて見ようか――すると初さんはのこのこ歩き出した。
「何ともなかったですか」
「這うんだ」
「え?」
「這うのだてえ事よ」
と初さんの声はだんだん遠くなってしまう。その声で自分は不審を打った。いくら向うむきでも、普通なら明かに聞きとられべき距離から出るのに、急に潜《もぐ》ってしまう。声が細いんじゃない。当り前の初さんの声が袋のなかに閉じ込められたように曖昧《あいまい》になる。こりゃただ事じゃないと気がついたから、透《すか》して見るとようやく分った。今までは尋常に歩けた坑が、ここでたちまち狭《せま》くなって、這わなくっちゃ抜けられなくなっている。その狭い入口から、初さんの足が二本出ている。初さんは今胴を入れたばかりである。やがて出ていた足が一本這入った。見ているうちにまた一本這入った。これで自分も四つん這いにならなくっちゃ仕方がないと諦《あきら》めをつけた。「這うんだ」と初さんの教えたのもけっして無理じゃない
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