わ》ったが、役人は別に自分の方を見向もしなかった。その代り立っていた坑夫はみんな見た。しかし役人の前を憚《はばか》ってだろう、全く一言《ひとこと》も口を利《き》いたものはなかった。
 溜を出るや否や坑《あな》の様子が突然変った。今までは立ってあるいても、背延《せいの》びをしても届きそうにもしなかった天井が急に落ちて来て、真直《まっすぐ》に歩くと時々頭へ触《さわ》るような気持がする。これがものの二寸も低かろうものなら、岩へぶつかって眉間《みけん》から血が出るに違ないと思うと、松原をあるくように、ありったけの背で、野風雑《のふうぞう》にゃやって行けない。おっかないから、なるべく首を肩の中へ縮め込んで、初さんに食っついて行った。もっともカンテラ[#「カンテラ」に傍点]はさっき点《つ》けた。
 すると三尺ばかり前にいる初さんが急に四《よつ》ん這《ば》いになった。おや、滑《すべ》って転んだ。と思って、後《うしろ》から突っ掛かりそうなところを、ぐっと足を踏ん張った。このくらいにして喰い留めないと、坂だから、前へのめる恐《おそれ》がある。心持腰から上を反《そ》らすようにして、初さんの起きるのを待ち合
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