いる。その上相手がどてら[#「どてら」に傍点]である。このどてら[#「どてら」に傍点]が事もなげに、砂のついた饅頭をぱくつくところを見ると、多少は競争の気味にもなって、神経などは有っても役に立たない、起すだけが損だと云う心持になる。そこで自分はとうとう神さんにたのんで饅頭の御代《おかわ》りを貰《もら》った。
 今度は「一つ、どうです」とも何とも云わずに、木皿が床几《しょうぎ》の上に乗るや否や、自分の方でまず一つ頬張《ほおば》った。するとどてら[#「どてら」に傍点]も、「や、すまない」とも何とも云わずに、だまって一つ頬張った。次に自分がまた一つ頬張る。次にどてら[#「どてら」に傍点]がまた一つ頬張る。互違《たがいちがい》に頬張りっ子をして六つ目まで来た時、たった一つ残った。これが幸い自分の番に当っているので、どてら[#「どてら」に傍点]が手を出さないうちに、自分が頬張ってしまった。それからまた御代りを貰った。
「君だいぶやるね」
とどてら[#「どてら」に傍点]が云った。自分はだいぶやる気も何もなかったが、云われて見るとだいぶやるに違ない。しかしこれは初手《しょて》にどてら[#「どてら」に
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