い》って御覧なさい。案内を一人つけて上げるから。――それからと――そうだ、その前に話して置かなくっちゃなりませんがね。一口に坑夫と云うと、訳もない仕事のように思われましょうが、なかなか外で聞いてるような生容易《なまやさし》い業《わざ》じゃないんで。まあ取っつけから坑夫になるなあ」と云って自分の顔を眺《なが》めていたが、やがて、
「その体格じゃ、ちっとむずかしいかも知れませんね。坑夫でなくっても、好《よ》うがすかい」
と気の毒そうに聞いた。坑夫になるまでには相当の階級と練習を積まなくっちゃならないと云う事がここで始めて分った。なるほど長蔵さんが坑夫坑夫と、さも名誉らしく坑夫を振り廻したはずだ。
「坑夫のほかに何かあるんですか。ここにいるものは、みんな坑夫じゃないんですか」
と念のために聞いて見た。すると原さんは、自分を馬鹿にした様子もなく、すぐそのわけを説明してくれた。
「銅山《やま》にはね、一万人も這入っててね。それが掘子《ほりこ》に、シチュウ[#「シチュウ」に傍点]に、山市《やまいち》に、坑夫と、こう四つに分れてるんでさあ。掘子《ほりこ》ってえな、一人前の坑夫に使えねえ奴がなるんで、
前へ
次へ
全334ページ中161ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング