う意味になる。矛盾だらけのしまいは、性格があってもなくっても同じ事に帰着する。嘘《うそ》だと思うなら、試験して見るがいい。他人《ひと》を試験するなんて罪な事をしないで、まず吾身《わがみ》で吾身を試験して見るがいい。坑夫にまで零落《おちぶ》れないでも分る事だ。神さまなんかに聞いて見たって、以上|分《わかり》ッこない。この理窟《りくつ》がわかる神さまは自分の腹のなかにいるばかりだ。などと、学問もない癖に、学者めいた事を云っては済まない。こんな景気のいいタンカ[#「タンカ」に傍点]を切る所存は毛頭なかったんだが、実を云うとこう云う仔細《しさい》である。自分はよく人から、君は矛盾の多い男で困る困ると苦情を持ち込まれた事がある。苦情を持ち込まれるたんびに苦《にが》い顔をして謝罪《あやま》っていた。自分ながら、どうも困ったもんだ、これじゃ普通の人間として通用しかねる、何とかして改良しなくっちゃ信用を落して路頭に迷うような仕儀になると、ひそかに心配していたが、いろいろの境遇に身を置いて、前に述べた通りの試験をして見ると、改良も何も入ったものじゃない。これが自分の本色なんで、人間らしいところはほかにあ
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