せざるを得ない。世間は学校の採点を信ずるごとく、評家を信ずるの極《きょく》ついにその落第を当然と認定するに至るだろう。
 ここにおいて評家の責任が起る。評家はまず世間と作家とに向って文学はいかなる者ぞと云う解決を与えねばならん。文学上の述作を批判するにあたって(詩は詩、劇は劇、小説は小説、すべてに共有なる点は共有なる点として)批判すべき条項を明かに備えねばならぬ。あたかも中学及び高等学校の規定が何と何と、これこれとを修め得ざるものは学生にあらずと宣告するがごとくせねばならん。この条項を備えたる評家はこの条項中のあるものについて百より〇に至るまでの点数を作家に附与せねばならん。この条項のうちわが趣味の欠乏して自己に答案を検査するの資格なしと思惟《しい》するときは作家と世間とに遠慮して点数を付与する事を差《さ》し控《ひか》えねばならん。評家は自己の得意なる趣味において専門教師と同等の権力を有するを得べきも、その縄張《なわばり》以外の諸点においては知らぬ、わからぬと云い切るか、または何事をも云わぬが礼であり、徳義である。
 これらの条項を机の上に貼《は》り附《つ》けるのは、学校の教師が、学校
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