善意的なるもまた多とすべきである。あるにもかかわらず学生は迷惑である。当該課目における智識が欠乏するためではない、当該課目以外の智識が全然欠乏しているからである。ただ欠乏しているからではない。その結果としていらぬところまでのさばり出て、要もない課目を打ちのめさねばやまぬていの勇気があるから迷惑なのである。
 これらの人は自己の主張を守るの点において志士である。主張を貫かんとするの点において勇士である。主張の長所を認むるの点において智者である。他意なく人のために尽さんとするの点において善人である。ただ自他の関係を知らず、眼を全局に注ぐ能わざるがため、わが縄張《なわば》りを設けて、いい加減なところに幅を利《き》かして満足すべきところを、足に任せて天下を横行して、憚《はば》からぬのが災《わざわい》になる。人が咎《とが》めれば云う。おれの地面と君の地面との境はどこだ。境は自分がきめぬだけで、人の方ではとうから定めている。再び咎《とが》めれば云う。この通り足が達者でどこへでも歩いて行かれるじゃないか。足の達者なのは御意の通りである。足に任せて人の畠《はたけ》を荒らされては困ると云うのである。かの
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