参考で、批評家の尺度ではない。尺度は伸縮自在にして常に彼の胸中に存在せねばならぬ。批評の法則が立つと文学が衰えるとはこのためである。法則がわるいのではない。法則を利用する評家が変通の理を解せんのである。
 作家は造物主である。造物主である以上は評家の予期するものばかりは拵《こし》らえぬ。突然として破天荒《はてんこう》の作物を天降《あまくだ》らせて評家の脳を奪う事がある。中学の課目は文部省できめてある。課目以外の答案を出して採点を求める生徒は一人もない。したがって教師は融通が利《き》かなくてもよい。造物主は白い烏《からす》を一夜に作るかも知れぬ。動物学者は白い烏を見た以上は烏は黒いものなりとの定義を変ずる必要を認めねばならぬごとく、批評家もまた古来の法則に遵《したが》わざる、また過去の作中より挙《あ》げ尽したる評価的条項以外の条項を有する文辞に接せぬとは限らぬ。これに接したるとき、白い烏を烏と認むるほどの、見識と勇気と説明がなくてはならぬ。これができるためには以上の条項と法則を知れねばならぬ。知って融通の才を利《き》かさねばならぬ。拘泥《こうでい》すればそれまでである。
 現代評家の弊《
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