利を享《う》ける。中学の課目は数においてきまっている。時間の多少は一様ではない。必要の度の高い英語のごときは比較的多くの時間を占領している。批評の条項についても諸人の合意でこれらの高下を定める事ができるかも知れぬ。(できぬかも知れぬ)崇高感を第一位に置くもよい。純美感を第一にするもよい。あるいは人間の機微に触れた内部の消息を伝えた作品を第一位に据《す》えてもいい。あるいは平々淡々のうちに人を引き着ける垢抜《あかぬ》けのした著述を推《お》すもいい。猛烈なものでも、沈静なものでも、形式の整ったものでも、放縦《ほうしょう》にしてまとまらぬうちに面白味のあるものでも、精緻《せいち》を極《きわ》めたものでも、一気に呵成《かせい》したものでも、神秘的なものでも、写実的なものでも、朧《おぼろ》のなかに影を認めるような糢糊《もこ》たるものでも、青天白日の下に掌《てのひら》をさすがごとき明暸《めいりょう》なものでもいい――。相当の理由があって第一位に置かんとならば、相当の理由があって等差を附するならば差支《さしつかえ》ない。ただしできるかできぬかは疑問である。
 これらの条項に差等をつけると同時にこれら
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