たかい」
「何も釣れません」
「釣れなくっても面白いのかい」
「浩然《こうぜん》の気を養うたい、あなた。どうですあなたがた。釣に行った事がありますか。面白いですよ釣は。大きな海の上を小舟で乗り廻わしてあるくのですからね」と誰彼の容赦なく話しかける。
「僕は小さな海の上を大船で乗り廻してあるきたいんだ」と迷亭君が相手になる。
「どうせ釣るなら、鯨《くじら》か人魚でも釣らなくっちゃ、詰らないです」と寒月君が答えた。
「そんなものが釣れますか。文学者は常識がないですね。……」
「僕は文学者じゃありません」
「そうですか、何ですかあなたは。私のようなビジネス・マンになると常識が一番大切ですからね。先生私は近来よっぽど常識に富んで来ました。どうしてもあんな所にいると、傍《はた》が傍だから、おのずから、そうなってしまうです」
「どうなってしまうのだ」
「煙草《たばこ》でもですね、朝日や、敷島《しきしま》をふかしていては幅が利《き》かんです」と云いながら、吸口に金箔《きんぱく》のついた埃及《エジプト》煙草を出して、すぱすぱ吸い出した、
「そんな贅沢《ぜいたく》をする金があるのかい」
「金はなかばって
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