なかろうと思います」
「なければ結構だが、今哲学者が云った通りちゃんと滅してしまうから仕方がないと、あきらめるさ。なに芸術だ? 芸術だって夫婦と同じ運命に帰着するのさ。個性の発展というのは個性の自由と云う意味だろう。個性の自由と云う意味はおれはおれ、人は人と云う意味だろう。その芸術なんか存在出来る訳がないじゃないか。芸術が繁昌するのは芸術家と享受者《きょうじゅしゃ》の間に個性の一致があるからだろう。君がいくら新体詩家だって踏張《ふんば》っても、君の詩を読んで面白いと云うものが一人もなくっちゃ、君の新体詩も御気の毒だが君よりほかに読み手はなくなる訳だろう。鴛鴦歌《えんおうか》をいく篇作ったって始まらないやね。幸いに明治の今日《こんにち》に生れたから、天下が挙《こぞ》って愛読するのだろうが……」
「いえそれほどでもありません」
「今でさえそれほどでなければ、人文《じんぶん》の発達した未来|即《すなわ》ち例の一大哲学者が出て非結婚論を主張する時分には誰もよみ手はなくなるぜ。いや君のだから読まないのじゃない。人々個々《にんにんここ》おのおの特別の個性をもってるから、人の作った詩文などは一向《い
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