他の区別もなくなって、生きているか死んでいるか方角のつかない時に、突然|後《うし》ろの古沼の奥でギャーと云う声がした。……」
「いよいよ出たね」
「その声が遠く反響を起して満山の秋の梢《こずえ》を、野分《のわき》と共に渡ったと思ったら、はっと我に帰った……」
「やっと安心した」と迷亭君が胸を撫《な》でおろす真似をする。
「大死一番《たいしいちばん》乾坤新《けんこんあらた》なり」と独仙君は目くばせをする。寒月君にはちっとも通じない。
「それから、我に帰ってあたりを見廻わすと、庚申山《こうしんやま》一面はしんとして、雨垂れほどの音もしない。はてな今の音は何だろうと考えた。人の声にしては鋭すぎるし、鳥の声にしては大き過ぎるし、猿の声にしては――この辺によもや猿はおるまい。何だろう? 何だろうと云う問題が頭のなかに起ると、これを解釈しようと云うので今まで静まり返っていたやからが、紛然《ふんぜん》雑然《ざつぜん》糅然《じゅうぜん》としてあたかもコンノート殿下歓迎の当時における都人士狂乱の態度を以《もっ》て脳裏をかけ廻る。そのうちに総身《そうしん》の毛穴が急にあいて、焼酎《しょうちゅう》を吹きかけ
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