子《こしきし》も舌を捲《ま》いて驚ろいたくらいのものさ」
「先生、子規さんとは御つき合でしたか」と正直な東風君は真率《しんそつ》な質問をかける。
「なにつき合わなくっても始終無線電信で肝胆相照らしていたもんだ」と無茶苦茶を云うので、東風先生あきれて黙ってしまった。寒月君は笑いながらまた進行する。
「それで置き所だけは出来た訳だが、今度は出すのに困った。ただ出すだけなら人目を掠《かす》めて眺《なが》めるくらいはやれん事はないが、眺めたばかりじゃ何にもならない。弾《ひ》かなければ役に立たない。弾けば音が出る。出ればすぐ露見する。ちょうど木槿垣《むくげがき》を一重隔てて南隣りは沈澱組《ちんでんぐみ》の頭領が下宿しているんだから剣呑《けんのん》だあね」
「困るね」と東風君が気の毒そうに調子を合わせる。
「なるほど、こりゃ困る。論より証拠音が出るんだから、小督《こごう》の局《つぼね》も全くこれでしくじったんだからね。これがぬすみ食をするとか、贋札《にせさつ》を造るとか云うなら、まだ始末がいいが、音曲《おんぎょく》は人に隠しちゃ出来ないものだからね」
「音さえ出なければどうでも出来るんですが……」
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