のごとし。いや宿のない犬ほど気の毒なものは実際ないよ」
「犬は残酷ですね。犬に比較された事はこれでもまだありませんよ」
「僕は何だか君の話をきくと、昔《むか》しの芸術家の伝を読むような気持がして同情の念に堪《た》えない。犬に比較したのは先生の冗談《じょうだん》だから気に掛けずに話を進行したまえ」と東風君は慰藉《いしゃ》した。慰藉されなくても寒月君は無論話をつづけるつもりである。
「それから徒町《おかちまち》から百騎町《ひゃっきまち》を通って、両替町《りょうがえちょう》から鷹匠町《たかじょうまち》へ出て、県庁の前で枯柳の数を勘定して病院の横で窓の灯《ひ》を計算して、紺屋橋《こんやばし》の上で巻煙草《まきたばこ》を二本ふかして、そうして時計を見た。……」
「十時になったかい」
「惜しい事にならないね。――紺屋橋を渡り切って川添に東へ上《のぼ》って行くと、按摩《あんま》に三人あった。そうして犬がしきりに吠《ほ》えましたよ先生……」
「秋の夜長に川端で犬の遠吠をきくのはちょっと芝居がかりだね。君は落人《おちゅうど》と云う格だ」
「何かわるい事でもしたんですか」
「これからしようと云うところさ」
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